高調波の対策として
“直列リアクトルのリアクタンスはコンデンサの6%位にする”
“進相コンデンサを設置している回路に直列にリアクトルを設置する”
など参考書には書かれていますが、その根拠についてはあまり触れられていないように思えます。
今回はその根拠について、回路などを使って説明します。
それでは、いってみましょう。
高調波電流とは?
参考書などに記載されているため、簡単に説明します。
図のように基本波の整数倍の周波数をもつ正弦波のことと定義しています。
高調波が及ぼす影響
参考書などに記載されているので簡単に説明すると
機器、ヒューズ、ブレーカの過熱、振動などの問題を引き起こします。
なぜ直列リアクトルのリアクタンスはコンデンサのリアクタンスの6%位にするのか?
結論から先に言うと、第5調波以上の高調波に対して回路のリアクタンスを誘導性にするためです。
それでは回路図を使ってそれを確かめてみましょう。
図のコンデンサと直列にリアクトルを設置した場合の合成リアクタンスを考えます。
コンデンサのリアクタンスは周波数に反比例し、リアクトルのリアクタンスは周波数に比例します。
コンデンサとリアクトルがこのようになる理由は別の記事に記載しております。
この回路について、第5調波のリアクタンスはコンデンサは-j(1/5Xc)、リアクトルはj5Xlになります。
合成インピーダンスはj(5Xl-1/5Xc)になります。これが誘導性になるためには以下の式を満たす必要があります。
j(5Xl-1/5Xc)>0
これを解くと、Xl>0.04Xcとなります。確実に誘導性にするために、余裕をもって6%としています。
実際に基本波と第5調波時のインピーダンスを計算してみましょう。
基本波について考えます。コンデンサのリアクタンスが-j30Ωとします。
リアクトルのリアクタンスはコンデンサの6%なのでj30*0.06=j1.8Ωになります。
よって回路のリアクタンスは-i30+j1.8=–j28.2Ωになり、容量性です。
第5調波に対しては、コンデンサのリアクタンスが-j30*1/5=-j6Ω
リアクトルのリアクタンスはj1.8*5=j9Ω
回路のリアクタンスはj9-j6=+j3Ωとなり、誘導性になります。
直列リアクトル設置前と設置後の違いは何なのか?
違いを確かめるために回路図を使います。
直列リアクトル設置前
回路図を見てください
jXlo=j0.2[Ω]:高圧配電系統のリアクタンス
jXc=-j30[Ω]:進相コンデンサのリアクタンス
In[A]:高調波発生源を電流源とみなしたときに流れる電流
第5調波について考えます。I5=10[A]とした時の高圧配電系統に流れる電流を求めます。
上図の第5調波に変更した等価回路は下図のように書く事ができます。
I1[A]:高圧配電系統に流れる第5調波電流
I2[A]:進相コンデンサに流れる第5調波電流
回路方程式より、
I5=10=I1+I2・・・①
jXlo*I1=jXc*I2・・・②
①、②よりI1=12Aとなりました。これは高調波発生源の電流I5=10[A]よりも大きくなっております。
直列リアクトルが進相コンデンサに直列に接続されていないと、高調波電源と進相コンデンサの電流が合わさった高調波電流が配電系統に流れることになります。
直列リアクトル設置後
下図のように電力コンデンサと直列に直列リアクトルを設置しました。
jXlo=j0.06*30=j1.8[Ω]:直列リアクトルのリアクタンス
第5調波について考えます。I5=10[A]とした時の高圧配電系統に流れる電流を求めます。
上図の第5調波に変更した等価回路は下図のように書く事ができます。
I3[A]:高圧配電系統に流れる第5調波電流
I4[A]:進相コンデンサに流れる第5調波電流
回路方程式より、
I5=10=I3+I4・・・③
j*I3=j3*I4・・・④
③式、④式より
I3=7.5Aとなりました。これは高調波発生源の電流I5=10Aよりも小さい結果となりました。
直列リアクトル設置の有無による高圧配電系統に流れる電流比は
I1/I3=12/7.5=1.6倍
つまり、直列リアクトルの設置により、高圧配電系統へ流れる電流を小さくすることができるのです。
今回の問題から進相コンデンサに直列リアクトルがないと高圧配電系統に大きな高調波電流が流れることがわかったと思います。
そのための対策として、
進相コンデンサにコンデンサを直列に接続。
大きな高調波発生源に対しては専用線により電力を供給
という対策がとられています。
本日はここまでです、毎度ありがとうございます。